たいそんの日記

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

砂のお城

 わたしは 海が 好きだから
毎日欠かさず 見に行くの

渚に立って 寄せ返す波や
遠くの貨物船を カモメたちを見るのが
とても 好きだった
一日だって 同じ海は なかったわ

沖を 泳ぐ人たちが わたしを呼んでいる

「おうい そんな所にいないで
きみも 泳ごうよ 気持ちいいよ」

そう言われるたびに
ああ 本当に気持ちよさそうだな
わたしも 泳いでみたいなと
水着に 着替えようか 迷うんだけど
どうしても 入ることができない

「ううん わたしはここでいい」

むかし 溺れたことがあってね
幼いわたしは 怖いもの知らずで
どんな海にも 勇敢に立ち向かった

その日も いつもと同じように
日焼けも恐れず 勢い良く
海に入って ばしゃばしゃやっていると
急に 足を引っ張られて
海の底に 追いやられたの

息ができなくて 苦しくって
死ぬんだって 思った
とても 大好きな海に
わたしは 殺されるんだって

もがいているうちに
運良く 助かったんだけど
それからね もう海には
入らないと 心に決めたの

でも あの海の美しさを知っている わたしは
そんな目に遭っても やっぱり 次の日も
その次の日も 欠かさず 海を見に行ったわ
それでね 泳げないかわりに
砂のお城を 作ろうと 思った

最初は うまくいかなくて
何度も 壊れたし 何度も 壊したわ
けれど 今じゃ
どんな 複雑な造りの お城も
わたしの手にかかれば
おちゃのこさいさいで
まわりの人も 感心を寄せるようになった

ときどき 心無い人が 踏み荒らしていくけれど
砂のお城の いいところは
何度でも 作り直せるから
そのたび わたしは つぎは
どんな お城を 作ろうかと 思案したものよ

わたしにとって 砂のお城は
海にいながら 海に入らず
海を愛する 唯一の方法だったのよ

それがね このごろ困ったことになってて
あのね 海が 呼ぶの
海が わたしを 呼ぶの

「きみに泳ぎ方を 返してあげる」って
「もう おとなだよ」って

わたし 怖くなって 辛くなって
その日 作った 砂のお城を
蹴っ飛ばして 一目散に
お家に 帰ったの

おふとんの中で 何度も
あの日 溺れた苦しさが
蘇ったわ
海を 信じてみたいけど
また あんな目に遭ったら
次こそ 死んでしまうのに
どうして あんなこというんだろう

「きみに泳ぎ方を 返してあげる」

泳ぎ方なんて 本当に知っていたのかしら

「もう おとなだよ」

いいえ わたしは 一生 こどものまま


夜通し 悩んで とうとう 明け方
察しがいいわね 行ったわ 海へ

誰もいない ひとりの海
わたしは 小さく 話しかける

「やっぱり 怖いわ」

「むかしはどこまでも泳いでいたじゃない」

「それは むかしの話よ
もう 沖までなんて とても行けない」

「泳ぎたい気持ちが いちばんだろ」

「また溺れるかもしれない」

「そうかもね だけど死ぬとも限らない」

「そんな無責任な!」

「奪うだけが 海じゃないよ」

「・・・」

「与えるのも また海だ」

「・・・」

「海はとっても 残酷で 美しい
それは きみが一番 しってるだろ」

「せっかく上手に砂のお城を
作れるようになったのに」

「うん いつも見てたから 知ってる
きみの カバンの中に
いつも 水着が 入っていたことも」

「それは・・・」

「泳ぎたかったんじゃないの?」

「・・・」

「おいでよ きみはもうおとなだよ」

「・・・バタ足から 教えてくれる?」

凪いだ海を 私は泳ぐ
憧れの海は むかしとおなじ
冷たくて 暖かくて
すこし こわくて 気持ちが良い

昔とった杵柄で わたしは
すっかり 泳げるようになった

波は こうして 生まれている
真下から見る カモメは せわしない
貨物船は 本当はとっても 速い

まだまだ知らないことだらけだ
それにすべてを 受け入れたわけじゃない

今もまだ 海に足をいれるその瞬間
わたしは とても 怖くなる
今日が 死ぬ日かもしれない
奪われる日なのかもしれない

それでも わたしは 海を行く
ひとりぼっちで 泳ぎだす
やがて 海と 同化するように

わたしが 波を 起こすんだ
波が わたしを 起こすんだ

なにも考えず ただ在るだけで
すべてが うまくいくようにと願いながら
”行けるところまで”を 目指して
飛沫をあげて 泳いでいく

足が着かないところまでやってきた
くたびれた 私は 小さな海岩にのぼり
休んでいると
砂浜にひとり 男の子がいて
いつかの わたしと そっくりそのまま
せっせと 砂のお城を 作っている
あそこまでの 距離は50mくらいだろうか
わたしは 大声を張りあげる

「おうい そんな所にいないで
きみも 泳ごうよ 気持ちいいよ」

「ううん、僕はここでいい」

「分かるよ その気持ち
とっても とっても よくわかる」

「だったら 誘わないでくれよ」

「ねえ!きみのカバンの中に
何が入ってるか 当ててみせようか!」

男の子は 慌てて カバンを抱きしめて
一歩二歩 じりじりと 後ずさる

わたしは 胸いっぱいに
潮風を 吸い込みながら 叫んだ

「きみに 泳ぎ方を 返してあげる!」

わたしは 明日も海へ 行くだろう

スポンサーサイト
  1. 2016/06/10(金) 14:25:28|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。