たいそんの日記

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あけてぞけさはわかれゆく

 いかんいかん
ふと自分のブログを見てみたら
ぼんぼり 二ヵ月半も 書いていない
なんか よくわからない広告みたいなものも
出てくる始末だし
うむ ここはいっちょ
気合を入れて 書こうじゃないか
学生時代 親が寝静まってから
真っ暗な 部屋の中で
アダルトサイトを こっそり閲覧しているうちに
培われた 僕のこの ブラインドタッチでもって
ぱちぱち かたかた やろうじゃないか

 先日 十数年ぶりに 競馬に行った
たしか 僕がまだ 十才の頃だかに
一度だけ お父さんに
連れていってもらって 以来の
京都競馬場であるからして
記憶はおぼろげだが
その時は 小額ながら 勝ったはずだ
(子どもは馬券が買えないので
代わりにお父さんが買ってくれた)

 前日の深夜から 遊びに来ていた
高校時代からの 悪友の
ウェルシーと つぐみと
まだ 風の冷たい 朝ぼらけのうちに
家を飛び出し まずは勝利祈願
景気よく行こうやと パンの販売も兼ねている
お気に入りの 喫茶店で モーニング
ここは380円で 飲み物と
数十種類から選べるパンがひとつ付いてくる

 僕は 熱い珈琲と ホットドッグを 頼み
腹の空きも かなりのものだったので
追加で エビとアボカドの 乗った奴も選んだ
都合二つのパンを ぺロリと平らげ
珈琲を 一息で飲み干し
スポーツ新聞を 舐めるように 読んだら
勇んで 座席から 立ち上がる

だが 会計の段になって伝票を見ると
合計380円也 とある
たしかにここの モーニングは380円だが
僕は追加で エビとアボカドのパンも頼んだのだから
合計は 510円になるはずである
そういえば 今日は 見慣れない店員さんがいたな
ははーん つまりこういうことだ
まだ若く 年の頃は はたちにも 満たない
あの女の子が 慣れない朝の労働に
うっかり レジを 打ち間違えたのだろう

 さて どうしたものか
いつもの僕なら その生来の卑しさと
吝嗇っぷりで もって
知らぬ存ぜぬ キメ込んだ
会心の おとぼけ顔で
お店を 後にしていただろうが
今日の 僕は違うのだ
なにせ これから ギャンブルに いくのだ
ここで わずか百円そこそこの金を
出し惜しみ 畜生の考えで 人を騙ったとあれば
勝てる 勝負も 勝てなくなってしまう

「あの これ間違えてませんか
ぼく パンを ふたつも食べたのに」

まったく 善行というものは 素晴らしい
春の陽射しをたっぷり浴び含ませた
布団に ダイブしたような清々しさがある
あの若い店員さんの 豆鉄砲顔ときたらどうだ
間髪いれず 僕に ぶつけてきた
慈愛の篭った 渾身の笑顔ときたら

「今日の 勝負は もらったな」

駅まで向かう道すがら
僕はそんないやらしい事を考えながら
ポケットの中のがま口を
開けたり閉じたり 忙しかった

 こう見えて 僕は昔から ギャンブルの類に
まったくといって良いほど 興味がない
パチンコ・スロット・競馬・競輪・競艇
なんでもいいが とにかく
金銭を賭けるといったことに
まるで 興奮を 憶えない人種である

そりゃあ たとえば千円を賭けたとして
それが 数千万円にでも なろうものなら
さすがに あたふたも するだろうが
そこに至るまでに
(ともより当たるとも限らない上に)
どれだけの 金銭を 失うことになるか
考えるだけで ゾッとするし
そんな 余裕があるなら
古本屋で 文庫本を 一冊
ビデオ屋で 映画を一作
買うか借りるかした方が
はるかに 有意義ではないかと思うのだ

 ギャンブル狂の 友人に言わせれば
勝った負けたは どうでもよく
ただ その刹那の スリル
リールが揃うやもしれぬ瞬間や
賭け馬が 後方から 追い上げる最中
胸の奥で熱く燃える血液
そういう一瞬のスリルを愉しむのが
ギャンブルなのだ という事らしいが
ただでさえ 毎月 財布の中のわずかな小銭を
テーブルにぶちまけては
生ぬるい ため息を 虚空に 放り
さて 給料日までの 数週間を
どう食いつなごうか 算段するような
ある種 スリル満点の生活を
何年も 送っている僕にしてみれば
ギャンブルに 食指が 動かないのは
当然といえば 当然なのだった

 で あるからして 今回このように
友人からの誘いでも 無ければ
自分の意思で 競馬場へ行くことは
無かったし これから先も無いと思う

とはいえ 年末年始の繁忙期に
シフトを埋めまくったお陰で僕の懐も
いつもに比べ 少々 暖かいというのもあるし
遠い昔 お父さんが 僕に見せてくれた
大人の世界とやらを
二十代も半ばに迫る今 改めて見るのも
また一興というものだ
せっかく 訪ねてきてくれた友人の誘いを
無碍にするのも 無粋というものだろう

 僕は ギャンブルに 興味が無いだけで
別に 嫌悪しているわけではないのだ
そりゃ 身を持ち崩すほど のめりこんで
尻の毛まで 毟り取られるような
どうしようもないチンカスは
バカとしかいいようがないが
お小遣いの範囲で 愉しむ分には
さほど 悪というほどでもなかろう
勝手にするがいいさ

 京阪電車は えちらにおちらと
京都競馬場を目指す
人もまばらな 電車の中
座席を 三つ 陣取った我々は
「勝てるといいね」
「お馬さんが見れるね」
「勝てるといいね」
「お馬さんが見れるね」
と 壊れた糸巻人形のごとく
何度も 繰り返しているうちに 到着
風こそ冷たいが お天道様は
ご機嫌だったと見えて陽も照っていた

 少し歩くと 大きな木を
中心にした円状の広場があり
そこをお馬さんたちが
のろりのろり けれど力強く
踏みしめるように 歩いていた

「ここはなんなの」
ウェルシーに 訪ねると
「ここはな パドックといって
馬の調子とか 見るんだよ」
と教えてくれた
なるほど 電光掲示板には
これからレースに出るお馬さんの
体重の増減とか 倍率とか
そういうのが 書いてある

しかしかなりの
ちんぷんかんぷんっぷりで
こりゃほとんど競馬初体験の僕には
頭を使って 賭けるのは
土台無理だろうと 思い
すでに 競馬新聞とにらめっこしている
ウェルシーに向かって
僕は 即座に言い放った

「いいかい よくお聞き 
我が友 ウェルシーよ
僕 こうやって 君らの誘いに乗って
のこのこ京都競馬場くんだりまで
来てやったんだがね
どうも お馬さんの 毛並みだとか
騎手の情報だとか 坂道に強いだとか
とにかく そういうのが 分からないんだね
従って 僕は今日 君が賭けるのと
まったく同じお馬さんに張るとするよ
それというのも どうやら
今日の この面子の中で
君が一番 競馬に詳しいらしい
その証拠に 君は競馬新聞だって
すでに購っているじゃないか
そこへいくと この僕ときたら
いわば丸腰で 戦場へやってきた
兵士のようなものだ
いたずらに じぇに(銭)を 喪うよりも
君に乗っかった方が いくらか
勝率もマシになると 思うんだがね
まったく ギャンブルという文化を前に
これほど 興の醒める発言というのも
そうそうねえなってことくらいは
僕にも 重々 分かってはいるんだがね
パドックをごらんよ お馬さんは嘶いているよ
それ以外 何が 必要だっていうんだ
このがま口を 君に 預けるつもりで
そこんとこ ひとつ
くれぐれもよろしく頼むよ」

と 西村賢太よろしくの 厭味ったらしい
言い方を 実際したかは さておき
要するに
「見方がぜんぜんわかんないから
ウェルシーと同じお馬さんに賭けてもいい?」
と いった旨の
とにかく 早々に 競馬の醍醐味を
放棄した 舐め腐ったスタンスの宣言をするも
ウェルシーは 屈託のない 良い奴なので
「じゃあ 出来るだけ 堅いやつで
攻めていこうか」
と 素晴らしい対応してくれたので
ホッと 胸を撫で下ろす

ひとしきり パドックでお馬さんを
見た後 レース場へと 足を向かわせる

「わー!ひろい!」
と 見たままの感想が 口を突いて出るほど
実際問題 レース場は 広かった
ときどき テレビで やっている競馬を
見るともなしに 眺めることがあるが
あれの数倍 数十倍の 広さが
体感として あった

「今 四レース目だから
次の五レース目から賭けようか」
と ウェルシーが言ったので
レース場の下見も そこそこに
馬券売り場に 引っ込んだ

ふと 我に返って 周りを見渡せば
そこはまさに 雄の世界で
どこで売ってるんだ それ
と 思わせる 謎のキャップと
作業着を着込んだ おっさん達が
耳に赤ペンを 挟みつつ
渋い顔で競馬新聞を睨んでいた

ウェルシーとつぐみは慣れたもので
おっさんたちの間を縫うように歩き
軽やかにマークカードと ボールペンを 揃え
「ここをベース(基地)にしよう」と言って
各馬券売り場中央にある
記入台へ 身体を 押し込めた

埃っぽいような 酒臭いような
けれど 決して 嫌な雰囲気ではない
クリーム色の 馬券売り場で
三人は 額を ひっつけあわせながら
再度 競馬新聞に目を落とす

「こいついいんじゃない?
最近 地方で上位多いよ」
「いや、それダメ 後半弱いもん
体重もかなり落ちてきてるし」
「おっきいの狙うのはもうちょっと後にしよう」
「ここは手堅く・・・」

ウェルシーもつぐみも
受験の時でさえ見せたことのないような
真剣味を帯びた表情であれこれ思案し
その横で僕は
「あ、この机の上にエアコンがあるから
ここだけ風が当たって気持ちいいな」
などと 考えていた

「よし これでいこう!」
放ったらかしていたのか
放ったらかされていたのか
ようやく 賭ける馬が 決まったふたりは
僕を置いて さっさと
その場を離れだしたので

「待ちたまえ チンカスどもよ
抜け駆けは 許さないぜ
僕は ついさっき
今日は 君と心中するつもりだと
言ったそばじゃないか
そんな か弱い羊のような
僕を 差し置いて 自分たちだけ
さっさと馬券を買おうっていう算段かい?
僕を 出し抜こうったってそうはいくか
こちとら 頭の悪さじゃ
関西でも 指折りときてるんだ
御託は 良いから まずは この僕に
マークカードとやらの
記入の仕方から 教えてもらわなくっちゃ
てんでお話にもなりゃしないじゃないか
遊びじゃないんだぜ
丸腰で 戦場へやってきた
兵士なんだからさ 僕は
手厚くしてくれても 罰は当たるまいよ
それとも何かい
ふたりだけで さっさと勝って
泡銭かっさらって
その金で 京橋くんだりで
馬刺しでも 食おうってそういう腹づもりなら
僕 こんな屈辱は 生まれて初めてだから
即刻 この場を 降りさせてもらうよ
そして 今日まで築いた 友情は
金輪際 おしまいだ
お前らのような 有閑人種は
にんにくたっぷりくっつけた馬刺しでも食って
一山いくらの 風俗のお姉ちゃんと
くんずほぐれつ愉しむんだろうな
勝手にするがいいさ
僕 ぜんぜん寂しかないよ
さあどうなんだい
僕にマークカードの記入の仕方を
今この場で教えるか
それとも友情を篩いに掛けるか
いったいぜんたいどっちなんだ!」

と 西村賢太よろしくの 厭味ったらしい
言い方を 実際したかは さておき
要するに
「あ ちょっと待って 僕
マークカードの書き方が
わからないから教えてよ」
と 行った旨の頼りない懇願をすると

「あ、知らなかった?
ほんとに興味ないんだな 貸してみ」
と 素晴らしい 対応をしてくれたウェルシーの
おかげで ついに 馬券を 手にすることができた
記念すべき 生まれて初めての
自分のお金で購った馬券である
(たとえそれが人の思惑に
ごっつりと乗っかった情けないものだとしても)

準備は整った
レースも開始直前
にわかにボルテージの上がりだした
レース場で 三人も ご他聞に 漏れず
そわそわと スタートの時を待つ

ちなみに一戦目は 二千円を 賭けた
これは ウェルシーが そうしていたから
それに倣ったのだ
二千円は僕には 大金だが
きっと それだけ 勝利を確信しているに
違いないと 踏んだのだ
単勝だかいう 賭け形態のもので
意味はさっぱりわからないが
とにかく1着に なれば そこそこの金額になるらしい

待ちに待ったレースがいよいよ始まった
ファンファーレが鳴るや
遥か遠くで俄かに黒い物体たちが蠢く
馬だ
馬が走っている
団子状態になっているのか
先頭が誰なのか分からない
電光掲示板に
映し出される映像では
7番の馬が僅かに先立っている
最後のカーブを曲がる頃には
はっきりと馬の集団が見えていた
ドドドッドドドッと
蹄が地面に刺さる音が響く
後方から一匹の馬が
猛烈に追い上げてきた
周りの人々は
声にならない叫び声をあげながら
「逃げ切れ!」と 声援を送る
猛然と 追い上げる 黒いあの馬
こいつは確か 僕が買った馬券の馬
まさかいきなり勝つのか?
胸が高鳴る ひりひりする
もし勝ったら何 購おう
あわわわ 泡泡泡
い、い、い
「行けー!!!!」
馬券を握り締めながら
僕は力の限り 大声を張り上げた



 レースが終わるやいなや
先ほどまでの 盛り上がりは
何処吹く風とばかりに
静まり返っていた
勝者は 馬券を現金に引き換えに
敗者は 次のレースに備えに
さっさと馬券売り場に消えていった
僕ら三人は ほとんど無言のまま
電光掲示板に表示される
レース結果を呆けながら眺めていた



「負けたやん」



 賭けたお馬さんは 確かに
ウェルシーの読み通り
後半から いきなり巻き上げ
上位に入賞した
しかし 結果は二着である
あのお馬さんが一着にならないと
なんの意味もないのである

「惜しかったなあ」
と ウェルシーが 馬券を
電光掲示板を 交互に 見ながら
僕に言っているとも
自分に言っているとも
とれるボリュームで 呟いた

「・・・・・・クビって書いてあるけど
辞めさせられちゃうの?」

「いや、あれはクビ差ってこと
クビの差で負けたって事」

「負けかあ・・・・・・」

こんなことなら 朝
喫茶店で 店員のミスを指摘するんじゃなかった
会心の おとぼけ顔で
差額を払わず 店を後にすりゃよかった
お金にいつも不自由している僕が
まったくなんだって あんな
これ見よがしの 良い人気取りを
発揮したのか 今となっては
甚だ謎である

まったく 善行というものは くだらない
熱々の味噌汁をたっぷり含ませた
布団に ダイブしたような不愉快さがある
まったく今の 僕の 冷めきった表情ときたらどうだ
なにが 「今日の 勝負は もらったな」 だ
シンプルに恥ずかしい
バカだ 僕は大バカものだ
二千円!二千円あれば
なにが買えた?
欲しい本だって購えたじゃないか
ハーモニカも新調してもよかった
映画を何本も借りて
映画合宿も開けたし
うまい魚と酒でも購って
家でひとりへべれけになるべきだった

馬券売り場まで戻る途中
僕はそんな事を考えながら
ポケットの中のがま口を
開けたり閉じたり
忙しかったが
レース前とでは 明らかに
膨らみが 小さくなっていた
がま口は なんとも頼りなかった

 それから同じ要領で
二度三度 賭けてみたが
結果はいずれも 惨敗であった
賭け金を 小額にしたところで
負けてしまえば 何の意味もないのだから
懐のがま口は 着実に寂しくなってくる

「来るんじゃなかった」

ほとんど 半べその僕は
生来の 身勝手さでもって
滅法界 怨念を込めながら
今にも 床に 寝転がり
癇癪でも 起こしそうな勢いでもって
ふたりに そう言い放った

つい数時間前の 昨夜
「あした 競馬でも行こうか」
と 誘ってきたふたりに
「競馬!?わー行きたい行きたい
僕 子どものころに
いっぺん 行ったきりなんだよ
ひゃああ 愉しみだなあ」
と えびす顔爆発で
テンションを上げきった僕と
それを にこにこ眺める ふたり
たとえるなら
「今年の正月はハワイでも行こうか」
と たっぷり 蓄えた 髭を撫でる
実業家のダンディな 父親が
利発な 息子娘たちに
優しく誘いかけ
「うわーい!パパだーいすき!」
などど 言いつつ 豪快に抱きついて
「おおっと こらこら
ワインがこぼれるじゃないか」
と 言いながらもまんざらでもない父親と
「まー!美容院の予約をしなくっちゃ!」
すでに 忙しない様子で
子どもを ふたり生んで なお
スタイルの維持に 気を遣い
今でも 週四で 夫と
セックスしている華奢な妻の
ハートウォーミングな
家族の風景よろしくの
団欒が 我々にも あったというのに
事 ここにきて 雰囲気は
最悪である
なにせ 全員 負けているのだ

「うぅ・・・来るんじゃなかったよう・・・・」

末っ子長男という 家に生まれ
親戚を見渡しても 男児は僕一人
(うちの家系は たいへんな女系家族)
幼少の砌より
「これお食べ あれお食べ」と
たいそう 可愛がられて 育ったために
根っからの 甘ったれ
他力本願主義にできてる
わがままな 僕は
もはや半べそを通り越した
大粒の涙を 垂れ流し
怨念丸出しの 先ほどの
「来るんじゃなかった」より
より同情を誘うような 厭らしい言い方でもって
ふたりに ぶつけてみた所
ふだん ぼろくそに 悪口を
叩き合う つぐみをもってして
「元気 出そうよ 次は勝てるよ
俺の方が たくさん負けてるしさ
な?気にすんなよ」
と 言わしめ
ウェルシーは
「そうだよ 気にするなよ
どうだい 良い時間だし
気を取り直して
昼餉にでも 洒落込もうよ
今日びの 競馬場は
いろいろ お店もあるんだぜ
ケンタッキーなんかもあるよ
ね?行こうよ」
と これ以上ない
気の遣いようで 励ましてくれた

ふたりからの激励と
おひるごはんの 提案に
すっかり 気を良くした僕は
「そーだね!おなかすいた!何 食う!?」
と 先ほどまでの 暴君っぷりを
一瞬で 無かったことにし
軽やかに立ちあがり
売店 目指して ずんずん 歩き出した
そんな僕の後方から聞こえた
ふたりの 小さな ため息は
かまいたちとなって
芝生を 一束 刈り取った

 さて おひるごはんである
フードコートへ行くと
なるほど 大型ショッピングモールと
遜色なく 様々な店舗が軒を連ねている
ケンタッキーやモスバーガー
吉野家なんかもあるし
他に レストランも たくさんあった
何を食べるか 迷ってしまう
朝はパンだったので
ここは ごはんを胃袋にぶち込みたい
考えた結果 結局
あちこちに点在する 小さな売店で
僕はカレーライス
ウェルシーは 焼きそば
つぐみは 海苔もちを
それぞれ 購って
椅子に 座って みんなで食べた
カレーは うまかった
具材は ひとつとして 入っておらず
福神漬けだけが 妙に多い
いたって シンプルなもので
別に 家で食うレトルトカレーと
そう変わらんが
こういう場所で 食べるというのが 良い
山の頂上で フォークで食べる
カップヌードルが
いつもの 十倍 うまく感じるのと
おなじ理論である
スプーンが プラスチックというのも
安っぽくて かえって よかった
アイスの棒や 服の裾などを
延々 噛み続けるという
小三男子レベルの癖が
今をもって 抜けない僕は
プラスチックのスプーンも
がしがし かみ続け
いとも簡単に 破壊してしまった

仲良く 食事を 摂っていると
大衆居酒屋で 必ず見かけるタイプの
おじさんに 話しかけられた

「どうだい 首尾は」

「いやあ からっきしダメ
さっきのも てんで 来やしねえ」

「どいつの賭けたの
ああ そりゃダメだ
もう年だしな すぐバテる」

「来たらでかかったんだけどな」

「そりゃそうさ みんなが賭けない馬は
当たればでかい でも勝てないよ」

どっこいしょと おじさんは
僕らの隣に じつに自然に腰掛け
ぺちゃくちゃやり出したので
いっちょ 僕も レクチャー貰っておくかと思い

「ねえ おっさん
僕 競馬 ドシロウトなんだけどさ
てんで 勝てやしねえでやんの
こいつらが これ行けこれ張れって
いうもんだから つい気をよくして
お金遣ったってのにだよ
まったく どういう教育を受けてきたのか
甚だ謎だけどね
そこへいくと おっさんは
見るからに 競馬に狂ってるようだね
いや 言わなくたって わかるよ
学業偏差値じゃ 生憎と
僕ら おっさんには遥かに勝っているけれども
こと競馬においては
経験がものを言うらしい
どうだね おっさん
ひとつ次になにが来るか
僕らに 教えてはくれないか
別に おっさんに何のメリットも無いけれどね
でも この世ってのは
損得でできてるわけじゃねえからなあ
老い先短いおっさんが
勘定するのは損得じゃなくて
功徳だよ
あの世で 裁きを受ける段になって
へえ あっしはかつて
迷える青年を救ってやったことがあるんでさあ
なんて 言えたらさ
そりゃあ かの閻魔大王だって
鬼じゃないんだから
いや これ以上ないくらい鬼だけどさ
天国への 抜け道だって
そっと 耳打ちしてくれるかもしれないだろ
その折れ曲がった 競馬新聞を
僕らに 見せなよ
そいで どれ購うべきか
ぜひ教えてくれ
むろん 外れた日にゃあ
僕ら 血眼になって
草の根 掻き分けてでも
おっさんを探し出して
叩きのめしてやるがね
さ、どうだい」

と 西村賢太よろしくの 厭味ったらしい
言い方を 実際したかは さておき
要するに
「ぜんぜん勝てないんですよ
オススメとかあります?」
と いった旨の 発言を放り込んだところ
「わかんねえなあ」
と 言いながら おっさんは
さっさと どこかへ 行ってしまったので
僕は「けっ 地獄に落ちやがれ」
と 悪態をついたとか ついてないとか

 そうこうしているうちに
次のレースまで
あまり時間も無くなってしまったので
ゴミをゴミ箱にぶち込んだのち
慌てて 作戦会議をする
この頃には 僕も
わからないなりに 口を出すようになり
ああだこうだ 言っているうちに
三連複で 挑むことになった

三連複とは 一着 二着 三着のお馬さんを
的中させることで その順位は 問わない
というものである
順位まで 的中させる 三連単に 比べて
倍率はさがるが
複勝に 比べれば 大きいのも 十分に狙える
ということだった

(もう出かけてから そこそこ
日が経っているので 若干
あやふやな部分もあるが
そのあたりはご容赦 いただきたい
お馬さんの名前とかも完全に忘れている)

「ぼく これで負けたら
最後にするよ さすがに
これ以上 負けが 嵩んだら
本当に 今月 生活が苦しいから」

レース開始まで あと数分
馬券売り場の人々を掻き分け
千円札に キスをし
マークカードを 入れる
すぐさま 出てきた 馬券を
毟り取り 準備は 整った

不安そうにみせる僕の肩と背中に
ふたりは 手を添えて
いよいよ レースは 始まった

最初のレースとうってかわって
今度は スタートと同時に
一匹の馬が 飛び出した
何馬身かは わからないが
たとえ後半失速しても
充分に 逃げ切れそうな 距離だ
後方を 数頭の馬が 抜いては 抜かれ
抜かれては 抜いてを 繰り返している
先頭の 馬は 僕が賭けた馬
残りの距離から いって
三着以内には ほぼ必ず 絡む
二着、三着に 後方で
団子状態になりつつも
善戦している あの中から
賭けた馬が ほんのクビ差でも
早くゴールすれば 的中だ
最後の直線も 残り半分ほど
先頭は ほぼ確定
胸の奥が 熱くなる
心臓が高鳴る
そのときだった

「たい、ほらお馬さんおるよ」

まだ若い父の声が聞こえた気がした
その途端に 父との思い出が鮮明に蘇る
十数年前 一度だけ
連れて行ってもらった競馬場に
今 大人になった僕は
友達と きている

自営業をしていた父の帰りは遅く
いつも 日付をまわってからだった
何度も食べた 父の寿司は
贔屓目に見ても 抜群だったが
激戦区の外れという 立地の悪さもあり
店の売上は芳しくなく
父も母も馬車馬になって 働いていたあの頃
どうしても 家族との 関わりが薄れていた
今でこそ うちの家族仲は相当に良いほうだが
思春期に突入すらしていない僕は
父とふたりでいると
どうしても息が詰まる思いがした
なにを喋っていいのか わからなかったのだ
それは父も 同じで
いがみ合っているわけでも
憎み合ってるわけでもなかったが
父と子の関係性は どこかぎこちなく
お互いがお互いを 観察し合うような空気が
あの頃 たしかにあった
そんな中 ほとんど初めて
父が自分だけを 遊びに誘ってくれた
むろん それまでに何度も
どこかへ連れて行ってくれては
いたはずだが 姉弟揃ってではなく
僕ひとりを誘うというのは
とても珍しい出来事だった

レストランの窓から
レース場を見下ろしながら
ぼくはざるそばをすすり
父はとんかつ定食を食べた
5切れほどのとんかつの中から
2切れも僕に寄越し
「うまいか?」
と 聞いてきたのを よく憶えている

僕ほどではないが
父もギャンブルに詳しい方ではなく
競馬新聞の読み方こそ知っているものの
馬の特徴までは把握していなかったと見えて
当時 最強と呼び声の高かった
ディープインパクトに
安牌狙いでいくらかを賭けた
ディープインパクトは名前こそ
知ってはいたが
生で見るのはもちろん初めてで
けれどレースが始まっても
ディープはほとんど一番後方を
ゆったりと走っていた
「なんだ ぜんぜん速くないじゃん」
と 思いながら 見ていると
ぼくのその声に 呼応したかのように
最後の直線から
猛烈な ダッシュを仕掛けてきたディープは
あっという間に すべての馬を
ごぼう抜きにし 一着でゴールした
父は 満足そうに
「勝ったなあ」と 呟き
三千円ほどになった
配当金のすべてを僕にくれた

なんだか照れくさくなって
ありがとうもちゃんと言えぬまま
お金をポケットにねじこんだ

帰り道 夕焼けの差す電車の中で
くたびれて眠っている
父の鼻の穴を 生まれて
はじめて まじまじと 眺めた

「たい、ほらお馬さんおるよ」
「たい、ほらお馬さんおるよ」
「たい、ほらお馬さんおるよ」

(たい、ほらお馬さんおるよ)

数回目の父の声が
頭を駆け巡った瞬間
開場の轟音でようやく我に返った僕は
はっと視線を掲示板に向ける

「え?どうなったの?」

となりにいるウェルシーは
わなわなと震えて何も言わない

「ねえ!どうなったの!外れたの?」
もう一度 聞くと ウェルシーは
ようやく こっちを 見て
両手を 高くあげ 僕に抱きつき
「当たったー!!!!!」と叫んだ


 僕の千円札は
わずか数分の間に一万円になり
ウェルシーも数枚の万札を
財布になおしながら
ぐっへっへ
ふぇっへっへ
と ふたりで 不気味な
笑みを 浮かべつつ
繰り返し ハイタッチをした

つぐみだけは 直前になって
読みを変えてしまい
完全に外れ うなだれている
僕もつい先ほどまで
こんな風に落ち込んでいたが
自分のことを棚にあげる主義なので
他人が ギャンブルで負けて
落ち込んでいる姿というのは
まことにうざいな と思った

「元気 出そうよ 次は勝てるよ
な?気にすんなよ
まあ僕は勝ったけど」
うなだれている つぐみの肩に
手を当てながら 僕は言った

ウェルシーも続いて
「そうだよ 気にするなよ
どうだい 気を取り直して
あっちの公園でも見に行くか
今日びの 競馬場は
お子様にも優しいんだぜ
トランポリンなんかもあるよ
まあ俺も勝ったから
今日は帰ってもいいけど」

と ふたりして つぐみを
いじり倒し なおのこと
がっくり来ている つぐみを傍らに
さっそく 売店で
鳥の唐揚げを購って
もぐもぐと 食べる

おつりを がま口に 入れると
ここに来る前より ずっしりと
重たくなっていた

 「このまま帰るわけにはいかん」
と ムキになった つぐみに付き合い
その後も 何レースか賭けた
もっとも 僕はせっかく 勝ったし
プラスで終わりたかったので
最少額の百円だけを
まず当たらないだろうと思われる
大穴のものにだけ 張って
お気楽な気分で 過ごした

 カラスが鳴く頃
帰路につく
結局 一度も勝てず
いたずらに お金を喪って
茫然自失のつぐみと
ほくほく顔の 僕とウェルシーの
温度差は 半端じゃなかったが
つぐみは 御殿山で降りるので
車中のほとんどの 時間を
勝者のふたりだけで 過ごした

「また連れて行ってね」

今日 あれほど わがままを言って
あまつさえ べそをかいていたのも
すっかり忘れて 調子よく
次回を 懇願する僕に
ウェルシーは
微笑みながら
「おう 次は 競艇でも 行くとするか」
明るく 答え やがて 電車は
最寄り駅に 着いた

「またね」
「うん また」

改札を出ると
風で煽られてしまったのか
数台の自転車がなぎ倒されていた
いつもの僕なら その生来の無関心さと
畜生っぷりで もって
知らぬ存ぜぬ キメ込んだ
会心の おとぼけ顔で
その場を 後にしていただろうが
今日の 僕は違うのだ
なにせ 今日は ギャンブルに 勝ったのだ

まったく善行というものは素晴らしい
春の陽射しをたっぷり浴び含ませた
布団に ダイブしたような清々しさがある

「今日は 本当に 愉しかったな」

アパートまで帰る道すがら
僕はそんな事を考えながら
ポケットの中で
分厚くなったがま口を
開けたり閉じたり 忙しかった
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  1. 2016/02/17(水) 03:47:00|
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